vol.11 体験がもたらすもの
私がオーガニック農業、そこから派生してオルタナティブな生き方に目覚めてしまうきっかけとなったのは、あるオーガニック農家との出会いでした。そこでのふた夏を含めて合計1年余りをフランスで過ごして日本に戻ってきたとき、貯金はすっかり使い果たして、経済的には本当に貧乏になっていたのですが、心はとても豊かだと感じたことを思い出します。
食べるものを自分で作る・育てるということに始まり、毎日が驚きと発見の連続でした。物質は循環するということを目の当たりにし、なぜ保存食が生まれたかということが当然のこととしてわかり、命が育まれる場面を毎日目にし、太陽の動きや雲の流れ、風の音や毎日姿を変える夕焼けの色に気づき、目を向けられる生活。月の光が明るすぎて目が覚めてしまった夜や、1時間ほどの間に50個以上の流れ星を見たこともありました。常にパソコンの前にいて、いつ日が暮れたのかにも気が付かず、今三日月なのか満月なのかも知らずに過ごしていた毎日とは180度違う世界がそこには存在していました。
ほんの一部とはいえ、農業を本格的に体験したのは、そこが初めてでした。その後もう一件養鶏農家でお世話になったので、野菜農家と畜産と両方の体験をしたのですが、正直言って自分が土を触ったり、農業というものにこれだけ喜びを見出すとは全く想像さえしたことがありませんでした。だから、私はできるだけ多くの人がもっと体験できる仕組みがあればいいと思うし、最近食育等の名目で、子どもたちが休耕田などを利用して、例えば「そばを植える→育てる→刈り取る→粉にする→打つ→食べる」という一連の流れに取組んでいる、などという話を聞くととてもいい試みだなと思います。やってみて面白いと思うか、嫌いと思うかは人それぞれだけれど、経験は多ければ多いほどいいのではないかと。
今年のぶどう摘みでもそうでしたが、私は想像力が足りないのでしょう、何事も体験しなければわからない人間です。ただ、体験するとそれが私の食卓に上ってくるために、どれだけの人の手をとおり、太陽と水と大地のエネルギーを受けてきたのかが心身ともに理解できます。だから思いを馳せられるし、自分自身もオーガニックなライフスタイルへと自然に移行し、皆さんにも伝えようとしているのだと思います。
今回はいつも以上に私的な話になってしまいました。
少しでも何かが伝わることを祈りつつ。