オーガニックレポート:オーストラリアのオーガニック事情3
2012年秋までオーストラリアに在住されていた越川加奈子さんからのオーストラリアレポート第3弾です。
++++++++++++++
今回は、オーストラリアで行われるオーガニック関連のイベントについてお伝えします。オーガニックに関するイベントは、全国規模のものから小規模でローカルなものまで様々です。
一番よく知られているイベントは、オーガニックエキスポ(Organic Expo & Green Show International)でしょう。2005年に始まったオーストラリア、いや、オセアニア地区ではオーガニック関連の最大規模の展示会で、毎年、シドニーとメルボルンのどちらかで開催されていました。2011年はシドニー、メルボルン両都市で開催されました。
オーガニックへの注目が早くから高まったオーストラリアだけあり、オーガニックエキスポは、第3回の2007年より大幅に出展者が増加、2011年までは約200社が参加する程でした。それも、出展者のほとんどがオーストラリアの国内企業で、豪国内のオーガニック熱がかなり伝わってきました。逆に、海外からの出展者はわずかで、INTERNATIONALと呼ぶには大げさに感じる程でした。取扱い分野は、食品、衣料品、美容、ワイン、ライフスタイル、ガーデニング、など多種多様です。通常3日間の開催で、1日目は事業者用、2日目と3日目に一般公開されます。会場では、オーガニック食品の試食、試飲はもちろんのこと、様々な商品が展示会特別価格で販売されます。また、料理実演やトークショー、専門者による講演会、子供向けにフェイスペインティングや動物とふれあう場も提供されます。会場内は、オーストラリア人のフレンドリーさも手伝ってか、とても暖かい雰囲気がします。
2012年からこのオーガニックエキスポは少し路線を変えました。「Sustain-Your natural and organic lifestyle show」と名称を変え、オーガニックに限定するのではなく、持続可能性や自然と視野を広げたイベントとなったのです。基本的なイベント内容は2011年までと変わらなかったものの、実際は、出展者数の減少(130弱)、開催地の移動(2011年の2都市開催から、2012年は1都市開催に戻り、イベント会場も事実上格下げ)がありました。また、オーガニックエキスポだった2011年までの大手の出展者(オーストラリア最大の認証機関ACOや大手スーパーマーケットWoolworthsのオーガニックラインMacroなど)が不参加でした。(2013年、ACOはメインスポンサーとしてではありませんが参加予定)
オーストラリアには、オーガニックに携わる日本人が少なくありませんが、以前ACOの代表を勤めていらしたAkiko Nicholsさんが、彼女の個人ブログ「るぱん日記」に、このイベントの様子と所感を書かれてます。Sustainのイベントは、やはり多くの関係者にはあまり評判が良くなかったようで、存続の危機も感じられたほどの様です。しかし一方、入場したオーストラリア人客には好評だったようで、内容への不満はなく、「もっと地元の企業に参加してもらいたい」という感想があった程でした。
Sustain
会場:メルボルン、ロイヤルエクシビションビル
日程:2013年10月19日、20 日
料金(2012年):大人$18(当日)/$15ドル(オンライン)(*)
(*2013年の料金は公式Webサイトで後日発表)
Sustainフェスティバルとは逆に、もともと持続可能性をテーマにしたフェスティバルとして、サステイナブルリビングフェスティバル(Sustainable Living Festival)があります。エコ関係のイベントではオーストラリアで一番歴史があり、初回は1999年、メルボルン郊外のHanging Rockという観光地にて、主にオーストラリア、アメリカ、ニュージーランドからの出展者が参加し、持続可能性についての情報交換をするためのイベントとして始まりました。
現在は、メルボルンの中心地フェデレーションスクエアに開催地を移し、2週間かけて開催、フェスティバル参加者が10万人を超えるかなり大規模なイベントになりました。やはりこちらも国内からの出展者がほとんどです。出展者は、オーガニック食品や衣料、生活用品の販売店はもちろん、動物愛護団体、エコ関係の学部、コースを持つ大学などの教育機関、エコな交通手段として注目される自転車販売会社、ソーラーパネルの販売会社、住宅販売会社、など実に幅広い分野から来ています。トークショー、ワークショップ、デモンストレーションの他、オーガニック食品を使った屋台やジュースバーなどももちろんあります。開催時期の南半球は2月でも真夏ですので、天気がよい週末に開催されると、かなり盛り上がります。(逆に、8月の真冬に開催されるSustainは、盛り上がりに欠けるのかもしれません。天気が悪ければ尚更です。)。
Sustainable Living Festival
場所:メルボルン、フェデレーションスクエア
日程:2013年2月9-24日(2014年の日程は未定)
料金:有料・無料イベントあり。
同じコンセプトで、ほぼ同じ名称のイベントが、オーストラリア北部のダーウィンでも開催されていました。こちらは、より持続可能性、エコに関するイベントで、オーガニック関係の展示者は見あたりません。ダーウィンは、地理的にオーストラリアの他の都市より東南アジアに近いからか、オーストラリアの一般的な都市よりオーガニック度が低いことが関係しているかもしれません。実際、オーガニック商品を購入できるのは、お決まりの大型スーパーマーケット2店(ColesとWoolworths。Woolworthsは最近できたばかりです。)とオーガニックストア1店のみでした。
Top End Sustainable Living Festival
場所:ダーウィン、ジョージブラウンダーウィン ボータニックガーデン
日程:2012年6月2-3日 (2013年の予定は未定)
料金:無料
その他以下のようなオーガニック関係のイベントがあります。
Australian Sustainability Conference & Exhibition
オーストラリアのビジネスが一同に集まり、持続可能性についての商品、思考を披露、意見交換するイベント。取扱い分野は、建物&建設、水管理、廃棄物&リサイクリング、エネルギー&テクノロジー、運輸&ロジスティックス、ビジネス・ストラテジーなど多岐に渡る。2012年シドニーで行われたこの展示会では、オーストラリアの現首相、ジュリア・ギラード氏がオーストラリア政府の持続可能性対策について開会スピーチを行った。
会場:メルボルン、コンベンション&エクシビションセンター
日程:2013年10月9日~10日
料金:無料(ビジネス関係者のみ入場可、事前登録必要)
Peats Ridge Sustainable Art & Music
シドニーから車で1時間程のGlenworth Valleyで行われるアート、音楽、持続可能性についてのイベント。世界の音楽ファンにも認められるいわゆる屋外フェスですが、持続可能性についても真剣な取組みをしています。取り扱うオーガニック食品に関してもかなり詳しい規定がありました。http://www.peatsridgefestival.com.au/sustainability/organic-food/
<*>2012年末に行われた前回、財政的な問題が起こったようで、次回以降の開催は現時点で未定。
会場:シドニー北部、Grenworth Valley
日程:2012年12月29日~2013年1月1日(2013年の開催予定は未定<*>)
料金(2012年):大人$160(当日料金、その他、駐車料金1台$50(当日)、シーズンチケット等がある)
Taste of Manly – Food, Wine and Sustainability Festival
シドニーからフェリーで30分の人気ビーチリゾート地マンリーで行われる食と持続可能性についてのイベント。生演奏を聴きながら、オーガニックフード、ケミカルフリーな食品やワインを堪能できる。出展者数13と規模は小さいが、毎年行われるお祭り。
会場: シドニー、The Corso, Manly, Manly Beach
日程:2013年6月1日、2日
入場料:無料
Eco Xpo
ビジネス、テクノロジー、建築、トラベル、保護、ヘルスケア、ファッションなど、様々な分野でエコを考える展示会。フェアトレードやオーガニック商品ももちろんあり。地元有名シェフによる料理実演、トークショーなども行われた。
会場:シドニー、メルボルン、パース毎年各地で開催。
日程:2013年4月19-21日(メルボルン)
料金:大人$7.5(前売り)、$15(当日)
Harvest ‘N GRAZE Local and organic food, wine and music festival
地元産で旬の食品やワインをピクニック感覚で堪能しながら、オーストラリアの著名ミュージシャンによる生演奏やアーティストによるパフォーマンス、地元料理の実演等を楽しめる。子供達への催し物もあり。出展者は30程度で規模はそれほどでもない上に、フェスティバル自体はオーガニックを売りにしてはいないが、オーガニックを取り扱う出展者が少なくない。
会場:Montsalvat, Mount Eliza, Elsternwick
日程:2013年3月24日(Montsalvat), 4月1日(Mount Eliza), 4月14日(Elsternwick)
料金:大人$29-35(前売り),$35-39(当日)
REEL FOOD NIGHTS
食物に関心を持つ若者グループが、オーガニックデリバリーセンターを貸し切って、アメリカのドキュメンタリー映画「グリーンホーンズー若き農夫達の物語」を鑑賞(上映するための電力は自転車ペダルで自家発電)。上映中は自家製オーガニックポップコーンなどを提供、観賞後はオーストラリアの未来の農業についてディスカッションを行った。
会場:シドニー、Rozelle
日程:2012年5月10日
料金:$15
コミュニティが開催するイベントは、通常小規模で、派手な出展者もいませんが、一般的なオーストラリア人の環境に対する意識の高さが表れた内容だと思います。私が訪れたストニントン地区の「サステイナブルフェスティバル」では、ソーラーパネルの販売会社、オーガニック植物店、オーガニック食品店、エコショップ、動物愛護団体、コミュイティの廃棄物担当、など20程の出展者がブースを出していました。生活に密着した部分でどのような工夫ができるかを理解したり、普段分かっているようで勘違いも多いゴミの出し方について、詳しいパンフレットを参考にしながら質問したり、と地味ながらも為になる内容でした。
このサステイナブルフェスティバルはコミュニティが企画する環境イベントの一つです。イベントは毎月異なるテーマで開催され、他にも、「野生動物も惹きつける持続可能なガーデンの作り方」、「オーガニックガーデンの作り方とオーガニックな害虫駆除法」、「自宅でニワトリの飼い方」、「コミュニティ内のリサイクル処理場見学ツアー」、「地元湿地帯の生物の多種多様性について」など、やはり住民の日々の生活に役立つような内容です。
農業、酪農大国ならではのイベント、シドニーロイヤルイースターショーとロイヤルメルボルンショーにおいてもオーガニックは注目されています。これらフェスティバルは、オーストラリア連邦が成立(1901年)するずっと前、オーストラリアがまだイギリスの流刑地だった頃に始まった伝統的なイベントです。第1回目の開催は、シドニーロイヤルイースターショー(Sydney Royal Easter Show)が1823年、ロイヤルメルボルンショー(Royal Melbourne Show)が1843年です。
これら2つのフェスティバルは、イギリス農業に関する主要な行事であるスコットランドのロイヤルハイランドショーにルーツがあるようで、内容もよく似ています。元々はオーストラリア各地で生産された農作物や家畜の展示や品評会として始まりましたが、現在は遊園地としての要素も加わっています。学校の長期休暇中に開催されることも手伝い、シドニーロイヤルイースターショーは入場者数100万人を超える国内最大級に、ロイヤルメルボルンショーは入場者数50万人の大規模なイベントになりました。
品評会、試飲試食ができる食品ブース、食品の品評会、オーストラリア版福袋Show Bagの販売などがありますが、あちらこちらでオーガニックなものを目にします。また、牛、豚、犬、馬、ヤギ、羊、アルパカなどを集めたアニマルファームは、単に子供達へ動物とふれあう機会を与えるだけでなく、自分が口にする食べ物がどこからやってくるかを学ばせる大変貴重な存在です。これらのイベントは、小規模ながら郊外の街でも開催されているそうです。
シドニーロイヤルイースターショー
会場:シドニー、Sydney Showground, Sydney Olympic Park
時期:2013年3月21〜4月3日
料金:大人$37.5、子供$23.5(入場料ほかシドニー中心部からの往復交通料金を含む、その他割引、セット料金あり)
ロイヤルメルボルンショー
会場:メルボルン、Melbourne Showgrounds
時期:2013年9月21日〜10月2日
料金:公式Webサイト参照
まとめと感想
海外のオーガニックイベントにおいてオーストラリアのブースは珍しくありませんし、海外でオーストラリア発のオーガニック製品を購入するのは決して難しくありませんが、意外にも、オーストラリア国内でオーガニックだけにテーマを絞ったイベントは存在しません。以前は、「オーガニック」を売りにしたイベントがありましたが、現在は、エコ、グリーン、サステイナブル、また、今回は取り扱いませんでしたが、ヘルシー、スピリチュアルと名付けられたイベントが主流で、その数は実に多く、これらのイベントの中でオーガニックが取り扱われている、というのが実態です。これは、オーガニックが目新しいものではなく、そのコンセプトが既に理解され、エコや持続可能性を実現する重要な手段の一つとして捉えられているからではないかと思います。また、国土の割に人口密度の低いオーストラリアでは、オーガニック関連の企業らも、顧客ターゲットを広げていかないとオーガニックの国内市場をこれ以上発展させるのは難しいと考えているのではないでしょうか?オーガニックに特化したイベントがないのは少し寂しいですが、私は決してこれがネガティブな現象ではないと思います。オーストラリアは、オーガニックを浸透させる第1のステージが終わり、オーガニック業界を本格的に発展させる第2のステージに入ったのだと考えます。
オーガニックの浸透度の高さは、健康維持への関心の表れであることはもちろんですが(健康イメージとは裏腹に、オーストラリアは世界第4位の肥満国です)、オーストラリアがもともと農業、酪農大国であることも大いに関係していると思います。農業、酪農に携わる人が多いだけあり、オーストラリアにおける農業のステータスが日本より基本的に高いです。農家の人々は情熱を持って作物を育て、直接販売する機会があれば自信を持ってお客さんに売っているし、お客さんも尊敬の念を持って農家の人々に接しているのが分かります。子供達は、学校で農作物を育てたり(そこにオーガニック団体が関わっていたり、と非常に環境に恵まれています。)、イベント会場や、ローカルマーケット、ファーマーズマーケットで、動物とふれあう場が多く与えられたり、と都市部に住む子供ですらとにかく農業、酪農に接する機会が圧倒的に多いのです。こうして、子供の頃から農業、酪農をリスペクトする心が自然に育っていくのではないかと思います。農業、酪農に対する理解度が高い程、オーガニックのメリットが理解されやすく、結果的に国としてのオーガニック度が高くなったのではないかと考えます。
オーストラリア連邦が成立してから100年余り、とオーストラリアはとても若い国です。世界中から移民が集まるこの国は、オリジナルの食文化は決して豪華なものではありませんが、移民が持ち込んだ食文化は実に多彩で内容も豊富です。レストランはもちろん多種多様で、変わった食品も比較的手に入りやすく、それがオーガニックだったりするとオーガニックファンとしてはとても嬉しくなります。日本食に関しても、オーストラリアでの日本食ブームも手伝って、日本国内と同レベルでオーガニックな食材が楽しめることがあります。そして、その品質が決して劣っていない。これもひとえに、日本人移民や滞在者の存在があるからこそだと思います。移民が作る食文化と言えば、1冊の本が面白かったのでご紹介します。
これは、オーストラリアで農業を営むイタリア系移民についての本です。イタリア南部カラブリア出身の夫婦が幼少時にオーストラリアへ移民、数十年後、念願かなって土地を購入し農業を始めました。イタリアの故郷で父母や祖父から教わったシンプルな農法が基本です。彼らは、自給自足の生活はもちろん、収穫した野菜や果物や、ワインやオリーブオイルを作って販売しています。農園の一般公開もしています。彼らの製品はオーガニック認証こそ受けていませんが、オーストラリアで数々の賞を受賞、オーガニックショップでも販売されています。オーストラリアとイタリアは地球の裏側にあり季節も真逆の国同士ですが、彼らは気候や土地の性質を理解し、オーストラリアで伝統的なイタリア式の食文化を見事に確立しています。この本には、オーストラリアの気候に会わせた旬の野菜や果物のリストの他、伝統的なイタリア料理のレシピも載っていいます。オーストラリア自体は歴史が浅く、豊かな文化があるとは決して言えませんが、1つの国にいながら他国の本格的な文化が体験できるとは、移民の国ならではの面白さだなと思いました。
少し中途半端になってしまいましたが、これでオーストラリアに関するレポートを終わります。オーストラリアは非常に大きな国ですので、とても全てを網羅したとは言えませんが、メルボルン住民から見たオーストラリアの現地事情を少しでも理解していただけたら嬉しいです。現在私は、3年半のオーストラリア滞在を終え、2012年末よりイタリアに住んでいます。次回からは、イタリアのオーガニック事情をお伝えしていきたいと思っています。