養鶏で使う抗生物質が原因の死亡者数、科学的に特定
出典:ソイル・アソシエーション(英国土壌協会)
抗生物質への耐性が高い強力な大腸菌に鶏を通じて血液感染し、それが原因で死亡する人が英国では毎年およそ280人に上ることが、ソイル・アソシエーションの報告で明らかとなった。最新の研究調査によれば、英国では上記に加え、家禽関連のESBL産生大腸菌感染症に対し最終手段の抗生物質を使用する治療のための総在院日数が12,500日となっている。一方EU全体では、毎年、養鶏と関連性の強い敗血症が8,502例、死亡者が1,519人に上っている。
ESBL(器質特異性拡張型βラクタマーゼ)産生大腸菌は、この10年間に、農業および医療分野において深刻な問題となった。この耐性菌は、第3世代および第4世代セファロスポリンとして知られる抗生物質が原因である。この抗生物質は農業と医療の両方で使用されており、それぞれの分野で問題がどの程度拡大しているのか、判断を難しくしている。この種のものとしては初となる今回の調査において、国際的な科学者チームはオランダの遺伝子指紋調査を使い、養鶏における第3世代セファロスポリンの使用を原因としたESBL産生大腸菌敗血症の罹患および死亡例の割合を推定した。分析結果によれば、英国では毎年、養鶏を原因とするESBL産生大腸菌敗血症は1,580例に上る。これは入院が必要な深刻な感染症であるが、病院で一般に使われるセファロスポリン系抗生物質は有効な治療薬にならない。すでに養鶏で類似の抗生物質が使われているためである。
科学者チームは、「食用動物に対する第3世代セファロスポリンの使用が潜在的な原因の回避可能な死亡者数、および医療コストは莫大だ」と指摘する。すべての食用動物に対する当該抗生物質の使用を制限するには、世界的規模の早急な対策が必要であると研究調査は提言している。ソイル・アソシエーションはこのことを2006年以来、呼びかけてきており、医療のための抗生物質を守る同盟(Alliance to Save our Antibiotics)にも加盟している。ソイル・アソシエーションの政策アドバイザーであるリチャード・ヤングが指摘するように、今回の調査は、ブロイラーという一種類の動物の一種類の抗生物質および一種類の細菌のみを対象としたものに過ぎない。しかし同種の抗生物質は養豚および酪農でも使用されており、さらに他にも多数の抗生物質が農業で使用されている。これらの問題についても類似の懸念が生じており、対応が迫られている。
英国の養鶏業者は2012年以来、自発的に、鶏に対するセファロスポリン系抗生物質の使用をすべて停止している。この抗生物質はこれまで養鶏での使用が認可されたことはないものの、以前はヒヨコの病気予防を目的に認可外で使用されていた。この慣習はまた、厳密にはEU規則違反であるにも関わらず欧州全体に広まっており、例えばオランダでは小売りされる鶏肉の約80%にESBL産生大腸菌が見つかるという事態も生じている。ソイル・アソシエーションが懸念するように、養鶏で使用される他の抗生物質について、少なくとも2種類は養鶏場内のESBL産生大腸菌を維持する能力のあることが知られている。したがって対策を講じない限り、セファロスポリンの使用を停止した現在でも問題は引き続き存在する。なお、欧州のオーガニックの家畜生産では抗生物質の常用は禁じられている。ただし個々のケースにおいて、数種の抗生物質の使用は認められている。
2013年8月8日
翻訳:池田真紀